名古屋高等裁判所 昭和33年(う)266号 判決
その要旨は、国税犯則取締法第一六条に「通告ノ旨ヲ履行シタトキ」とは、通告どおりに履行した場合は勿論、通告と同趣旨の履行をなす場合をも包含するものと解すべきである。本件において、昭和三二年二月、被告人は、名古屋国税局と交渉し、脱税額の倍額を同年三月から毎月金三万円宛分割納付する諒解を得て、これを実行しているから、前の通告は消滅し、変更せられたのであり、被告人がこれを履行すれば、最早同一事件につき訴を受けることはないものである。然るに、原判決が本件告発及び起訴を適法としたのは、法律の解釈適用を誤つたか、又は審理不尽の違法があるというにある。
よつて案ずるに、国税犯則取締法第一六条に「通告ノ旨ヲ履行シタトキ」とは、告発手続のなされる前に、通告にかかる金額を全額納付する等通告の旨を完全に履行することを要するものと解すべきであつて、同法第一七条の所定期間を越える期間に亘り分割納付するが如きは、未だ完全な履行をしたものと言うことはできない。本件について見るに原審並びに当審において取り調べた証拠によれば昭和三二年四月被告人は大島幸一及び坪井和一の両名と共に名古屋国税局の新美事務官、田中事務官と交渉し、右大島、坪井の両名において、本件脱税額を被告人に代つて毎月金三万円宛分納する旨の諒解を得て、同月より昭和三三年四月までに合計約五六万円を代納したことが認められる。しかし、右事実によれば、諒解の成つた日時は、既に所轄税務署長において告発手続をした後のこと(原審取調の中川税務署長の告発書によれば、本件告発の日時は昭和三二年二月一九日である)に属するから、その告発前に完全な履行のなかつたことは明瞭であり、又告発がなされたときは、その前になされた通告処分は効力を失い、税務当局は最早犯則者と脱税額について私和をなす権限を有しないものであるから、国税局において脱税額につき分割納付の約定をするも、何等の効力を有するものではない。従つて、先になされた告発は、それにより効力を左右されることなく、適法に存在し、これに基く起訴も適法であるから、原判決に所論の如き違法はない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 滝川重郎 裁判官 伊藤淳吉 裁判官 木村直行)